当サイトではドッグフードのお悩み相談を主にInstagramのDMでやっているのですが、実は普通の飼い主さんだけじゃなく、トリマーさん、ペットショップの店員さんなど業界の方からもDMを多くいただきます。
ありがたい事に当サイトの記事を仕事に活用して頂いているようで・・・どんどん活用して下さい!
で、今回ちょっと興味深いDMが届きましたので紹介すると共に、『総合栄養食ではないものを主食として与えるリスク』について【きらきら ぼくらのなみだごはん】という国産・手作り風なドライフードを例に解説していきたいと思います。
届いたDMはこちら。
元トリマーさんからの依頼ですね。店で販売している『きらきら ぼくらのなみだごはん』、『もりもり ぼくらのげんきごはん』をお客さんにもオススメしたが、これ大丈夫なのかと不安になった。なので評価して欲しい、そんな依頼内容。
では解説していきます。
【きらきら ぼくらのなみだごはん】とはどんなドッグフードか?まずはこのフードの特徴を解説
まずは今回題材とする『きらきら ぼくらのなみだごはん』がどんなフードなのか特徴を見ていきましょう。
きらきら ぼくらのなみだごはん|使用原料と成分値、そしてそのコンセプト
きらきら ぼくらのなみだごはん | 容量:400g 800g |
【原材料】 若鶏ささみ、小麦粉、コーンフラワー、じゃがいも粉、若鶏レバー、にんじん、かぼちゃ、トマト、キャノーラオイル、ホタテカルシウム、大麦若葉、モロヘイヤ、干ししいたけ、利尻昆布、ひまわり油、クロレラ、魚油、亜麻仁油、パセリ 【総合栄養価】 カロリー328kcal、水分9%、たんぱく質20g、脂質4g、炭水化物63g、灰分2g ナトリウム39㎎、カリウム497㎎、カルシウム238㎎、マグネシウム40㎎、リン212㎎、鉄分2㎎、亜鉛1㎎、銅148μg、ビタミンD9IU、ビタミンE0.85㎎、ビタミンK23.64μg、ビタミンB1 203μg、ビタミンB2 243μg、ナイアシン7.52㎎、ビタミンB6 526μg、ビタミンB12 3μg、葉酸118μg、パントテン酸3㎎、ビタミンC4㎎、飽和脂肪酸657㎎、n3系脂肪酸215㎎、n6系脂肪酸1.213㎎、コレステロール62㎎、水溶性繊維1g、不溶性繊維2g、食物繊維総量3g、イソロイシン973㎎ ロイシン1.767㎎、リジン1.494㎎、メチオニン523㎎、シスチン335㎎、バリン1.055㎎、ヒスジチン860㎎、アルギニン1.182㎎、アラニン1.146㎎、グリシン872㎎、プロリン841㎎、セリン886㎎ 価格:6,523円/800g kg単価:8,154円/kg |
まとめ買いすると多少割引あるのですが、定価はこの価格(2024年6月5日時点)。かなり高価なフードですね。内容に関しては後で解説するとして、次に製造方法について公式が投稿している動画を見ると雰囲気が掴めますので見てみましょう。
ドッグフード(ドライフード)には色々な製造方法がありますが、最も一般的な製造方法は『エクストルーダー』という機械での製造で、これは世界的に見ると9割以上。他には『コールドプレス製法』、『オーブンベイク製法』、『フリーズドライ製法』、『エアドライ製法』など色々とあるのですが・・・
『きらきら ぼくらのなみだごはん』に関しては『オーブンベイク製法』に近い製法ですね。一般的なエクストルーダーは高温・高圧での製造となるので、栄養素の劣化がある。それを避けるために低温で調理し乾燥。
考え方としてはこんな感じ。これ自体は別に間違っていません。それぞれの製法にはメリット・デメリットがありどれが一番優れているか?ってのは一概には言えません。
ドッグフードの製法方法について興味のある方はこちらの記事を読んでみて下さい。
そしてこのフードは総合栄養食ではありません。公式サイトにこのような一文があります。
一般的なドッグフードに記載されている「総合栄養食」という表示は、一般社団法人ペットフード協会が定めたAAFCOの栄養価基準に沿う様に作られたフードの事で、ペットフード協会に加盟しているペットフードメーカーが使用する、いわば”商標”のようなものです。
「総合栄養食」と記載されていなければ、栄養が整っていないフードであるといったことではありません。「総合栄養食」と記載されていれば、一生涯病気にならないということでもありません。
我々のご提案する愛犬のためのお食事は、わたしたち人間と同じ基準で管理された”食品”だけを使った、新鮮かつ安全なクオリティのものです。
弊社のフード類には「総合栄養食」や「一般食」といった表示はありませんが手作り食を参考に、日本で暮らすワンちゃんたちに合わせて提携の動物病院が統計した結果と監修の基、フードと水のみでワンちゃんが健康を維持するのに必要な総合的な栄養素を満たす内容となっております。安心して与えてあげてください。
https://pursuit-of-love.jp/user_data/faq
日本だとAAFCO(米国飼料検査官協会)の基準を満たしたフードが総合栄養食として販売できますが、それを否定している考えですね。確かにAAFCOはあくまでも基準の1つですし、総合栄養食だから良いフードとは限らない。もちろん総合栄養食を食べているからと病気にならない訳でもない。
実際にAAFCOの基準って意外と『雑』です。原材料の品質などについての基準がある訳でもないし、添加物を使用すれば基準を満たす事は簡単だったりする。
とは言えAAFCOの基準は多くの国で採用され事実上のグローバルスタンダードとなっています。
提携動物病院の統計と監修で得られた知見がグローバルスタンダードとなっているAAFCOの基準より信頼性が高いと自信と根拠があるなら別にAAFCO基準を無視するのは全然良いですが・・・
まあここは飼い主さんの価値観も出てきますね。
療法食だどで何かしらの成分を意図的に減らす必要がある、その結果一般食になる、こういうのは別ですが、当サイトとしては何かしら理由がない限り総合栄養食をオススメします。
総合栄養食ではない、つまりAAFCOの基準を満たしていないフードは『一般食』、もしくは『きらきら ぼくらのなみだごはん』のように何も記載されていない。このどちらかになりますので覚えておきましょう!!
きらきら ぼくらのなみだごはんをAAFCO基準と比較してみる
では『きらきら ぼくらのなみだごはん』をAAFCO基準で比較してみましょう。
AAFCOの基準って乾物重量(水分がない状態)での数値なので『きらきら ぼくらのなみだごはん』の保証成分は乾物重量に計算して比較しています。
乾物重量にする公式
(表示上の成分値)÷ (100−表示上の水分値)× 100=乾物重量
タンパク質系をAAFCO基準と比較
栄養素 | AAFCO成犬基準(%) | きらきら乾物重量(%) |
タンパク質 | 18.0 | 21.98 |
アルギニン | 0.51 | 1.30 |
ヒスチジン | 0.19 | 0.95 |
イソロイシン | 0.38 | 1.07 |
ロイシン | 0.68 | 1.94 |
リジン | 0.63 | 1.64 |
メチオニン | 0.33 | 0.57 |
メチオニン+シスチン | 0.65 | 0.94 |
フェニルアラニン+チロシン | 0.45 | 記載なし |
トレオニン | 0.74 | 記載なし |
トリプトファン | 0.48 | 記載なし |
バリン | 0.49 | 1.16 |
『きらきら ぼくらのなみだごはん』って総合栄養食じゃないとは言えアミノ酸とか細かな成分値公開している。これに関しては評価していたんですが、一部必須アミノ酸(赤文字の部分)については記載なしですね。なぜここだけ記載が無いなのか?理由はよく分かりません。
必須アミノ酸とはつまり犬が体内で合成できないので食べ物から摂取する必要があるアミノ酸。記載が無いものの効果について解説しておきます。
【フェニルアラニン+チロシン】
フェニルアラニンは必須アミノ酸、チロシンは非必須アミノ酸ではありますが、チロシンはフェニルアラニンから体内で合成される前駆体で甲状腺ホルモンや代謝物の合成に必要不可欠なものです。
これらが欠乏すると神経機能障害、また皮膚の色素が不足する『赤毛症』という病気になるリスクがあります。
【トレオニン】
体を構成するタンパク質の合成など様々な代謝に関わる必須アミノ酸のトレオニン。これが不足すると痩せます。みた感じどう考えても肉類の配合比率少ないですからね。トレオニンは動物性タンパク源に多く含まれるので、小麦粉が多いと推測できるこのフードには足りていないかも知れませんね。
【トリプトファン】
トリプトファンはセロトニンという神経伝達物質に変化する必須アミノ酸。セロトニンは別名『幸せホルモン』とも呼ばれており、これが不足すると攻撃的になったり睡眠の質が落ちる。神経質になる、などと言われています。
と、このように心配ではありますよね。このフードを与えていて体重の減少や被毛の色が変になってきた?と感じれば素直に総合栄養食に切り替える方が良いと思います。
ミネラルについてAAFCO基準と比較
次にミネラルについて。タンパク質についてはAAFCOの基準もそこまで高くないのであまり心配していませんでしたが、問題はここ。ミネラルですね!
ミネラル | 単位 | AAFCO成犬基準 | きらきら乾物重量 |
カルシウム | % | 0.5 ~ 1.8 | 0.26 |
リン | % | 0.4 ~ 1.6 | 0.23 |
カルシウム:リン | % | 1:1~2:1 | 1:0.88 |
カリウム | % | 0.6 以上 | 0.55 |
ナトリウム | % | 0.08 以上 | 0.04 |
マグネシウム | % | 0.06 以上 | 0.04 |
鉄 | mg/kg | 40 以上 | 21.98 |
銅 | mg/kg | 7.3 以上 | 1.63 |
マンガン | mg/kg | 5.0 以上 | 記載なし |
亜鉛 | mg/kg | 80 以上 | 10.99 |
ヨウ素 | mg/kg | 1.0 ~ 11 | 記載なし |
セレン | mg/kg | 0.35 ~ 2 | 記載なし |
このように見事にAAFCOの基準値を下回っているのですが、特に心配なのは『鉄』、『銅』、『亜鉛』ですね!保証成分値上の灰分とはつまりミネラルの事。これがやたら低いので分かっていた事ですが、細かく見てみると心配になるレベル。
このフードって『涙やけ』改善を意識したフードでその原因を『鉄分』と考えて鉄分を意図的に減らしている。涙やけの原因って様々な要因があってフードのみが原因とは限らないのですが、、、
健康を害するリスク冒してまでやる事か!?
ちょっとそれは違うんじゃないかな?と個人的には感じます。【涙やけ】に関しては別記事でまとめましたので興味のある方は読んでみて下さい。
きらきら ぼくらのなみだごはんのように総合栄養食じゃないフードの健康リスクについて
ドッグフードって基本的にビタミンとミネラルは添加されています。『きらきら ぼくらのなみだごはん』のように手作り風フードの特徴はそれら添加もしない。原材料由来のものから!みたいな考え方でこれ自体は否定しませんが・・・
特にミネラルって原材料由来のみで犬の要求量確保するのって非常に難しいです。だから添加している訳で・・・
今回の依頼者からのDMにもありましたが、犬が家具の鉄の部分を舐める。これ異食症と呼ばれたりしますが、土とかコンクリートなんかを食べる、舐める。ミネラル不足が原因の可能性は十分考えられます。
ではミネラル不足、特にこの手のフードだと『鉄』『亜鉛』は不足しがち。なのでその健康リスクを紹介しておきます。
犬の鉄分不足のリスク
人間でもそうですが鉄分不足になると貧血になったりしますよね?これは『鉄欠乏性貧血』と呼ばれますが、鉄分が不足すると赤血球の中の酸素を運ぶヘモグロビンというタンパクの合成が阻害されるため貧血になります。
それ以外にも免疫力の低下、被毛のトラブルなどにも影響します。
鉄分についての機能を解説していくと長くなるのでしませんが、この鉄分不足はよく手作りフードでも発生する問題。こちら海外の事例となりますが、ポルトガルで出版されている犬用手作りレシピの栄養成分を評価したところ鉄分は全体の68.3%が推奨量(ポルトガルなのでAAFCOではなくFEDIAFの基準)を下回っていた。という調査報告があります。
→https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5672303/
手作り風のフードなのでこれと同じような現象が起こっている、って事ですね。いくつかの同じようなコンセプトのフードを調べましたが、鉄分に関してはほとんどのフードで低い数値となっていました。
犬の亜鉛不足のリスク
鉄もそうですが、当サイトとしてこの手のフードの最大のリスクが亜鉛不足だと感じています。
亜鉛が不足する事での主な症状は皮膚トラブルですね。
非常に興味深い症例報告があるのですが、ペットショップの自家製ドッグフードを与えられた5歳のミニチュアダックスに口の周りに鱗屑(りんせつ)、肉球などに糜爛(びらん)が発生して動物病院を受診した。
病理検査を行うと表皮に不全角化と真皮浅層に炎症がみられた。
鱗屑:皮膚の表層にある角質が剥がれ落ちる状態
糜爛:ただれる事
不全角化:皮膚のターンオーバーが異常に速くなり、角化の過程が不完全になること
で、このペットショップの自家製フードとやらを食品分析してみると亜鉛と銅の量が非常に低く、亜鉛と必須脂肪酸を強化したロイカナのフードに切り替えると約1週間で改善傾向が見られた。そんな内容です。
→ペットショップ自家製ドライフードにより生じたジェネリック・ドッグフード皮膚症の犬の1例
2009年と少し古い内容なのでここで記載されているAAFCOの基準値とかは今と変わっているのですが、注目するべきはここで出てくる『ペットショップのオリジナルフード』ですね。
内容を見てみると、確かに亜鉛・銅の含有量は低い。でも今回取り上げている『きらきら ぼくらのなみだごはん』ってもっと低いですからね?
これ大丈夫?って心配になりませんか??
この症例報告でも指摘されていますが、植物性の原料ってフィチン酸という物質が多く含まれています。抗酸化作用があるので良い面もあるのですが、ミネラルの吸収を阻害するデメリットもあり、この手の手作り風フードって植物性原料使いがち。
ただでさえ少ないミネラル。その吸収性も悪くなっている。これは十分考えられると感じます。
つまり総合栄養食はこのような心配をあまりしなくて良い|あえて一般食を与えれるメリットが分からない
今回は『きらきら ぼくらのなみだごはん』を例に総合栄養食ではないフードのリスクについて解説してみました。
『きらきら ぼくらのなみだごはん』以外にもこの手のフードは大体同じような感じ。何かしらの成分がAAFCO基準だと足りていません。記事中でも言いましたが、AAFCOが絶対に正しいとは言わない。あくまでも基準の1つです。
でも、じゃあAAFCO以上に信用できる基準を出せるのか?ってなると誰も出せないはずなんですよね。
最近すごく感じるのは手作り派、自然派みたいな方が『日本ではペットフードは雑貨の扱いで、原料が粗悪な〜』みたいな表現をする事よく見かけます。でもだからと言って科学的根拠がないフードをオススメするのは凄くリスクがあるのではないかと。
という訳で当サイトでは何かしらの理由がない限り『総合栄養食』をオススメします。また『きらきら ぼくらのなみだごはん』はオススメしません。不安でしかない上にkg単価8,000円/kg↑。オススメできる要素がない。
だったら手作り風のコンセプトはありつつ、総合栄養食のフードを選んだ方が良いと思いますよ。例えば『ドッグフード工房』とかですね。500円お試しあるので気になる方は試してみて下さい。
では今回はこの辺で。こちらに当サイトで評価の高かったフードをまとめたランキング記事を作成しています。フード選びに迷ったらこちらもぜひ参考にしてみて下さい。
ドッグフードおすすめランキング表|6項目で公平な評価をしています